「ガラスのうさぎ」を読み返す8月
8月が過ぎようとしている。今日から2学期の子もいるだろうし、夏休みの最後の週をどう過ごすか楽しみにしている子もいるだろう。みんな宿題は終わっただろうか▼夏休みの宿題で「目の敵」にされがちなのが読書感想文だ。1冊の本と真剣に向き合って、自分の考えを見いだす体験は、とても得がたいものなのに……▼そんなことを考えたのは、この8月に高木敏子さんが亡くなったからだ。主婦だった彼女が自らの戦争体験を記した『ガラスのうさぎ』は、1977年に出版された。当時、読書感想文コンクールの中学生向けの課題図書になった。筆者も夏休みに読んだ▼訃報(ふほう)を機に、読み返した。聖戦を信じていた12歳の少女は、45年3月10日の東京大空襲で母と2人の妹を失う。疎開先から焼け野原になった東京に戻り、家の場所をシャベルで掘り返す。家族の行方は知れない。〈母や妹たちが使っていた茶碗(ちゃわん)のかけらを拾って、ハンカチにつつんだ。妹たちのままごと用の青い小さな茶碗が無傷で出てきたので、これもハンカチに入れた〉▼なぜだろう、今の方が胸にしみる。子どもの頃は遠い昔のできごとに感じた。だが今はウクライナやガザの情景と重なる。私たちの日常を重ねてしまう▼本との出会いは、著者その人との出会いだ。高木さんは亡くなっても、本は語り続ける。戦争の惨禍を二度と繰り返さないために、私たちに何ができるのか。平和と不戦を誓う8月の終わりに大人こそ改めて向き合いたい1冊だ。
朝日新聞2026年8月24日朝刊第一面「天声人語」
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