2025年6月22日日曜日

(天声人語)語り継いでいく

なぜ、逃げなかったのですか――。36年前に「ひめゆり平和祈念資料館」が開館したころ、沖縄戦を知らない来館者からそんな質問が多く寄せられたという。看護要員として戦場へ送られた「ひめゆり学徒隊」は戦火に巻き込まれ、軍から解散命令を出されてさまよい、命を落とした学徒たちは小学校から徹底した軍国教育を受け、動員から逃げることなど考えられなかった。最後に放り出されたのは戦場で、逃げ場もなかった。学徒隊の生存者たちは当時の状況を懸命に伝えてきた。亡くなった仲間の代わりに伝える義務があるのだと2010年に出した記念誌では、2年前に97歳で亡くなった元館長の本村つるさんたちが、次世代へつなぐ思いを語り合っている。アウシュビッツ博物館の日本人ガイドを訪ね、話に心が打たれた。体験していなくても説明できると気づき、後継に託すと決めたというきょうは沖縄慰霊の日。80年がたち、どう語り継ぐかは重要な課題だ。伝えてもらえば、次世代も戦争の実相を知ることができる。戦争ではいつでも「普通の人々」が巻き込まれ、犠牲になるのだと想像できる折しも日本時間のきのう、米軍がイランの核施設を空爆したと発表した。「軍事的な大成功」と誇らしげに語るトランプ大統領に「人々」が見えているとは思えなかった「ひめゆり」の生存者たちに感謝したい。伝えてもらったから、私たちは戦下の人々を想像できる。繰り返してはいけないと思いを新たにできる。2025-6-23 朝日新聞朝刊

「おばあちゃんの歌」 豊見城市立伊良波小6年・城間一歩輝(いぶき)さん

毎年、ぼくと弟は慰霊の日に

おばあちゃんの家に行って

仏壇に手を合わせウートートーをする

    ◇

一年に一度だけ

おばあちゃんが歌う

「空しゅう警報聞こえてきたら

今はぼくたち小さいから

大人の言うことよく聞いて

あわてないで さわがないで 落ち着いて

入って いましょう防空壕(ごう)」

五歳の時に習ったのに

八十年後の今でも覚えている

笑顔で歌っているから

楽しい歌だと思っていた

ぼくは五歳の時に習った歌なんて覚えていない

ビデオの中のぼくはあんなに楽しそうに踊りながら歌っているのに

    一年に一度だけ

おばあちゃんが歌う

「うんじゅん わんにん 艦砲ぬ くぇーぬくさー」

泣きながら歌っているから悲しい歌だと分かっていた

歌った後に

「あの戦の時に死んでおけば良かった」

と言うからぼくも泣きたくなった

沖縄戦の激しい艦砲射撃でケガをして生き残った人のことを

「艦砲射撃の食べ残し」

と言うことを知って悲しくなった

おばあちゃんの家族は

戦争が終わっていることも知らず

防空壕に隠れていた

戦車に乗ったアメリカ兵に「デテコイ」と言われたが

戦車でひき殺されると思い出て行かなかった

手榴弾(しゅりゅうだん)を壕の中に投げられ

おばあちゃんは左の太ももに大けがをした

うじがわいて何度も皮がはがれるから

アメリカ軍の病院で

けがをしていない右の太ももの皮をはいで

皮ふ移植をして何とか助かった

でも、大きな傷あとが残った

傷のことを誰にも言えず

先生に叱られても

傷が見える体育着に着替えることが出来ず

学生時代は苦しんでいた

    ◇

五歳のおばあちゃんが防空壕での歌を歌い

「艦砲射撃の食べ残し」と言われても

生きてくれて本当に良かったと思った

おばあちゃんに

生きていてくれて本当にありがとうと伝えると

両手でぼくのほっぺをさわって

「生き延びたくとぅ ぬちぬ ちるがたん」

生き延びたから 命がつながったんだね

とおばあちゃんが言った

    ◇

八十年前の戦争で

おばあちゃんは心と体に大きな傷を負った

その傷は何十年経っても消えない

人の命を奪い苦しめる戦争を二度と起こさないように

おばあちゃんから聞いた戦争の話を伝え続けていく

おばあちゃんが繫(つな)いでくれた命を大切にして

一生懸命に生きていく

朝日新聞朝刊 6月24日 つないでくれた命 大切に

日本本土最大の地上戦となり、日米合わせて20万人が犠牲になった沖縄戦。その戦没者らを悼む戦後80年の「慰霊の日」を迎えた沖縄に、真夏の日差しが降り注いだ。沖縄県糸満市では沖縄戦全戦没者追悼式があり、伊良波小6年生の城間一歩輝(いぶき)さんが「おばあちゃんの歌」を朗読した。


2 件のコメント:

  1. 「慰霊の日」を語り継いでいくのは誰ですか!!(T-44)

    6月23日は沖縄県が定めた「慰霊の日」です。戦後80年となるこの日には新聞・テレビ等が大々的にこのことを報道していました。
    私も追悼式のテレビ報道や新聞報道などを見ましたが、天声人語に記述されている「語り部」は、皆さん(このコメントの読者)の近くにいるのでしょうか!!
    世界で共通するのは「平和」や「戦争」の道具やPRに利用されるのは「子供」です。
    それは歴史が証明しています。・・・旧日本軍の東南アジアなどでの現地人による弁論大会、ラジオ体操などの集団競技、ナチスドイツの「ヒットラーユーゲント」の諸活動、最近ではアメリカ大統領執務室でのイーロン・マスク氏の幼い子供さんの映像などがありました。
    私の炎上ではありませんが、「日本の詩」を朗読した小学生6年生を演出させた・・・やり方などが子供を利用したPRではないかと思いました。・・・
    もちろん「おばあちゃんの歌」に感銘した人も沢山いたと思いますが、私は多様性の有る色々の方が、今後、永続的に「慰霊の日」の実相(事実)を語り継いでほし思いました!!




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  2. 「おばあちゃんの歌」の小学6年生の言葉に感銘を。
    人の命を奪い苦しめる戦争を二度と起こさないように、おばあちゃんから聞いた戦争の話を伝え続けていく、おばあちゃんが繋いでくれた命を大切に一生懸命に生きていく。
    👆戦争を体験した人が少なくなっていく中で伝え続けていくことこそ大切なんじゃないでしょうか。

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